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アートコラム

2022/12/10

財団設立40周年記念インタビュー「江東区の文化~未来へ~」第8回

「江戸前人情喜劇の12年」

亀戸駅裏旅館シリーズ

 平成24年から始まった「亀戸駅裏旅館」シリーズは、亀戸文化センターからお話をいただいた企画で、私が脚本と演出をしています。江戸前の人情喜劇が廃れてきて、もったいないと思っていたこともあり、コンパクトな形で続けられる楽しい舞台を提案しました。スタッフの皆さんが非常に面白がってくれたのが良かったですね。
 駅裏旅館のヒントは昔の映画にあった駅前シリーズで、亀戸駅の北側は賑やかだけど、東武線の方は雰囲気がガラッと変わり下町らしさが残っているじゃないですか。昔は華やいだけど、今は駅裏扱いされている小さな旅館があったとしたらどうなるか、というのが発端でした。
 ですから、企画が立ち上がった時はまず亀戸の街を歩きました。やっぱり、自分自身が亀戸に触れていかなきゃいけないなと。テーマソングの歌詞にも入っている亀戸餃子、亀戸天神、ハネカメ、佐野みそではおにぎりと味噌汁を食べたりしてね。
 上演会場が公共ホールですからテーマも常に意識してきました。面白さだけでなく、時にはこども食堂やいじめなどの社会問題もテーマに取り入れました。
 来年1月21日の第10回公演では、いよいよフィナーレを迎えます。「亀戸駅裏旅館」の行く末と12年間の集大成を、多くの人に見届けていただたらうれしいですね。

区民参加型の舞台づくり

 第3回公演から、公募で選ばれた区民の方々も出演しています。「かめいどらぼ」という区民参加型の演劇教室の案内を、亀戸文化センターで見かけたことがきっかけです。だったら、区民の方と一緒に喜劇をつくったらどうかと、私から提案しました。
 喜劇っていうのは、つくる過程の楽しさがあるんです。ワイワイ稽古していても、プロは本番直前になると急激に顔つきや熱量も変わるし、演劇教室とは違った世界を見てほしいと思ったからです。
 参加者の中にはレギュラーのように毎回出演している女の子もいます。小学生から参加して、もう高校生ですから、亀戸駅裏旅館で育ってくれたようなものですね(笑)。一人でも興味を持って参加してくれるのはうれしいことですし、芝居づくりは情操教育にもなるんです。人と人との繋がりの中で自分の役割を果たしていかなきゃならないですから。
 とくに喜劇は助け合いの精神が大切です。誰かがセリフを忘れても、プロの芸人は失敗を笑いに転化してフォローする。だから参加者の皆さんも、安心して参加してくれているのではないでしょうか。

喜劇とは私の教科書

 お笑いが好きでコントからこの世界に入りましたが、芝居もコントも漫才も一緒なんです。相手の気持ちをとらえながら、それをどう転がせば笑いになるのか、泣きになるのかを考える。相手の気持ちに寄り添えない人に芝居はできないから、私にとって喜劇は自分自身を成長させる場ですね。もちろん、相方から学んだことも多いですよ。
 この歳になって思うのは、同じ時間を過ごすなら楽しく生きたいよねってこと。その楽しさを人にも提供できることは幸せですね。
 そういった意味で、喜劇とは私の教科書。楽しいお笑いをするためにはどうすれば良いのか、いつも考えさせられます。自分の生き方そのものですね

(聞き手/片山祐子)

プロフィール

山口弘和(やまぐちひろかず)さん

1956年生まれ。コント山口君と竹田君として「お笑いスター誕生(NTV)」で初出場優勝デビュー。今年結成40周年を迎える二人のコントはいまなお健在で、日々進化を続けている。個人では、喜劇の脚本・演出も手掛け、後進の指導育成を行っている。漫才協会常任理事。

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