―明治から平成まで
講師
元帝塚山学院大学教授(もとてづかやまがくいんだいがくきょうじゅ)
宮内淳子(みやうちじゅんこ)
2024年5月28日() | 第1回 樋口一葉『たけくらべ』 |
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2024年6月25日() | 第2回 林芙美子『晩菊』 |
2024年7月30日() | 第3回 宇野千代『刺す』 |
2024年8月27日() | 第4回 有吉佐和子『非色』 |
2024年9月24日() | 第5回 津村記久子『ポトスライムの舟』・村田沙耶香『コンビニ人間』 |
女性をめぐる問題は、社会全体の問題でもあります。生きることに真摯に向き合った女性作家の眼が各時代に何を捉えたか、その名作を味わいつつ、未だ解決できていない問いかけを、共に考えていきたいと思います。
① 樋口一葉『たけくらべ』 1896(明治29)年
子どもの社会は大人の世界の縮図でもある。この時代、多くの子どもは決められた道を歩むしかなく、わけても女性は大人になっても他動的な人生が待っていた。吉原周辺に生きる子どもたちを描く「たけくらべ」は、近代文学の中でも屈指の名作である。ここに作者が込めた思いを探る。
② 林芙美子『晩菊』 1948(昭和23)年
敗戦後の混乱した世相の中、老いを見据え、しかもそれを跳ね返して生きようとする女性主人公の強さを描く。同時にその弱さもほのめかす、優れた描写力にも注目したい。戦後、あふれるような創作活動をした、林芙美子の充実期の作品である。
③ 宇野千代『刺す』 1966(昭和41)年
明るく前向きに生きるイメージが強い宇野千代だが、事業の失敗と夫・北原武夫の浮気と離婚という出来事を、後日、自省や悔恨を込めて綴ったのが、この小説である。宇野千代の別の一面に触れることができる。戦後の日本社会の変化や自分の人生の転換期に、何を思い、それをどう乗り越えたかが描かれる。
④ 有吉佐和子『非色』 1964(昭和39)年
「戦争花嫁」としてアメリカへ渡った女性たちが直面した、人種差別や異文化での暮らし、貧困のなかでの育児、労働などを描き出す。主人公の笑子は、そうした困難に立ち向かい、家族を守って生き抜く。有吉のアメリカ留学の体験から生まれた作品で、現代にも通ずる問題が浮かび上がる。
⑤ 津村記久子『ポトスライムの舟』 2009(平成21)年
村田沙耶香『コンビニ人間』 2016(平成28)年
就職氷河期を体験した津村が描く仕事、女友達との繋がり、結婚観などが、ゆったりした文体から伝わってくる。村田は、自分の求める居場所が世間の通念と合わない主人公の辛さを、コンビニという身近な空間を通して描く。現代の女性が直面する、仕事と家族の悩みが見えて来る。ともに芥川賞受賞作品。
【講師紹介】
宮内淳子(みやうち じゅんこ) 元帝塚山学院大学教授
1955年東京生まれ。お茶の水女子大学大学院人間文化研究科博士課程修了。2013年に帝塚山学院大学を退職。日本近代文学専攻。著書に、『谷崎潤一郎―異郷往還』(国書刊行会、1991)、『新潮日本文学アルバム 有吉佐和子』(新潮社、1995)、『藤枝静男―タンタルスの小説』(エディトリアルデザイン研究所、1999)、『岡本かの子論』(EDI、2001)、『花食いの系譜―女性作家・『少女の友』・宝塚少女歌劇』(翰林書房、2023)、共著に『パリ・日本人の心象地図』(藤原書店、2004)・『上海の日本人社会とメディア』(岩波書店、2014)などがある。
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